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夜パンの読み物 | 人思いの花屋さん〜夜パンB&Bカフェ体験記〜

文>竹中はる美 写真>夜のパン屋さん

最初はゴワッとした張り感があった麻のシャツが、繰り返し着て、使い込むうちに風合いを増し、しっくりと肌になじんでいくように。「夜のパン屋さんB&Bカフェ」もまた、回を重ねるごとに「けやきの森の季楽堂」の風景になじみ、まろやかな空気を醸し出している。2023年5月13日、第7弾開催。場の空気という、目に見えず、手に触れられないものも、培われ、変化していくのだとつくづく感じる。そんな空気をつくり出しているのが、スタッフであり、お客さんであり、そして、出店している店々だ。夜パン出張販売、エダモンカフェ、野菜マルシェ、手づくり教室、マッサージとともに定番が、花マルシェ。

2023年11月。夜パンB&Bカフェの第一回目から出店していただいた。

ここでブーケを買った人は、そのセンスのよさはもちろんのこと、「花の日持ちいい」ことを口にする。とくに冬場などは、「先月、買った花がまだきれいなのに、もう次の夜パンカフェの日が近づいている」と驚くほどだ。この花マルシェの主は、野上隆史さん、通称、たかしさん。日頃、「magu.flower(マグ フラワー)」の屋号で「ゲリラストリート花屋」を営んでいる。「車に花を積んで移動し、『うちの店先でやっていいよ』といってくださる店舗の軒下を借りて、花屋を出しています」たかしさんが、こんなユニークな花屋を始めたのは2021年2月。一軒のパン屋が始まりだった。

magu._flowers のInstagramより。SNSからも愛情とこだわりを感じる。

「パン屋の店先に花屋があったらかわいいし、パンを買ってから花を買う生活ってすてきだな、という発想でした。何軒かのパン屋にアプローチをしたところ、一軒がいいといってくれて、週一で出店させてもらうようになったのがスタートです」そのうち、たかしさんの花屋のことをSNSや口コミで知った、パン屋、美容院、アパレルショップなどが「うちの店先でもいいよ」と声をかけてくれるようになり、まさにゲリラのごとくあちらこちらの店舗の軒下に不定期で出店するようになった。

「店舗内に出店させてもらう移動花屋もありますが、私がストリートにこだわるのは、花を買う、買わないに関係なく、その店に来る人だけでなく、通りすがりの人にも気づいてほしいから。『あの店の前に花屋が出ていたよ』と家族の会話になったり、『あれ、昨日ここに花屋がなかったっけ?』と次の日に道ゆく人とお店の人の間で会話が生まれたり、コミュニケーションのきっかけにもなればと。また、いつもはない花屋の出現で、街がその日だけちょっとかわいくなる、見て幸せになる、そんな視覚的な楽しさも提供できたら」

12月の夜パンB&Bカフェでは、サンタコスチュームで出店してくれた。

たかしさんがこんなふうに、単に「花を売る」だけでなく、「人」のコミュニケーションや「街」という空間も意識しているのは、大学時代の研究にも関係がある。「農大の学生時代は、ランドスケープといって、街づくりや庭づくりの研究活動に没頭していました」。世界中の大学が参加する企業主催のコンペに、研究室の仲間とともにアイデアを提出し、最終選考まで残って3位を獲得したりもした。「その後はある種の燃え尽き症候群で、就職のこともあまり考えられずにいました。そんななか、設計事務所のバイトに行って、図面を引いてもあまり興味をもてず、直接、人と関わる仕事がしたいと思ったんです」

就職先に選んだのは、多数の店舗を展開する最大手の花屋。「それまで花を買ったこともなかったけれど、花を通して人とつながる仕事ならば真剣に打ち込めるなと思って」店舗での花の販売、本社でのさまざまな企画立案、さらにエリアマネージャとして複数店舗の統括。丸5年、着実にキャリアを積んだが、「数字管理などの仕事を求められるようになったとき、自分の中で違和感が生じて。そもそも人と関わる仕事をしたかったのに、人から遠くなってしまう。だから会社を辞めました。先のことは何も決めずに」数か月、ビジネス書を読みあさり、思考をめぐらし、その結果、始めたのが現在の仕事。いま、100店舗の軒下での出店を目標に活動している。「花屋の仕事のカテゴリーには、店舗販売、ブライダル、ディスプレーなどありますが、そのひとつとして『移動花屋』が定着させられるのか見極めたい。実験的に100軒やってみることでビジネスとして成立するか、話題性、可能性が見えてくると思うので」

季節ごとに並ぶ花の種類が変わるのも、見ていて楽しい。

 現在、約40店舗。その一つが夜パンカフェで、ここは「毎月必ず」の定期的な出店だ。「私が田町で出店しているとき、少し離れたところに『夜のパン屋さん』も店を出していて、ここでの出店を誘ってくれたんです。すごくうれしくて、毎月楽しみに来ています」たかしさんの花が日持ちするのは、仕入れの仕方や水揚げの方法などの工夫にある。「ただ、それは花に対する愛が強いというより、すぐ枯れる花は提供したくない、自分と関わった人を幸せにしたいという、人に対する思いが、正直、強い気がします」

まさに、人思いの花屋。そして、築150年の古民家の軒下にたかしさんの花屋があることで、夜パンカフェの風景は、間違いなく「かわいく」なっている。また、今回は、その古民家の中も花盛りとなった。「けやきの森の季楽堂」があるここ練馬区と、さらには中野区を中心に活動をしているフラ・ハーラウ・オ・カヴァイラニによるフラダンスのショーが行われたのだ。今日は空からたまに雨粒が落ちてくる天気だったが、子どもから大人まで、年齢に関係なく笑顔で踊るフラが始まった途端、古民家の中にパーっと花が咲き誇った。

いろんな人が集い、混ざり、「夜のパン屋さんB&Bカフェ」の空気は今後、さらに熟成していくだろう。「明日の母の日のためにカーネーションください」雨上がりの道を、大事そうに花を持って帰る人の姿があった。ここにも幸せが、ひとつ。

夜パンB&Bカフェ>次回は6/10(土)開催です!

日時:2023年6月10日(土)
11:30-17:00(ラストオーダー16:30)

会場:「けやきの森の季楽堂」東京都練馬区早宮3-41-13[アクセス